夢老い人

  • 超短編 479文字
  • 日常

  • 著者: ことは


  • 夢を見ていた。永い永い夢を。

    足がかゆくて目が覚めた。
    けれども掻くことができず、何故かゆいのかそればかり考える。
    白い天井。視界にはそれしかない。帰らなくちゃ、どこへ?とにかく帰らなくちゃ。
    身体を起こそうとしても力が入らない。

    「おばあちゃん」

    白い天井の端っこから、ぬっと顔が現れた。
    焦点が合わない。 ぼやけてしまって、声だけじゃ誰だかわからない。


    「だれだい?」

    「わたしだよ、あかりだよ」

    「あかりちゃん」

    はて、わしに孫はいたかの。

    もうなんにもわからない。

    「おばあちゃん、覚えてる?」

    「覚えてるよ、あかりちゃん」

    ごめんよ。覚えてない。けれどなんだか、懐かしい。
    ゆっくりとしか喋られない。おそらく孫であろうこの娘の顔もわからない。

    「嬉しい。おばあちゃんは、いま何を考えていたの?」

    「足がかゆい。どうしてかゆいんじゃろ」

    「ふふ」

    それから娘は濡れたタオルを絞って脚を拭いてくれた。
    冷たかったが、痒みはなくなった。
    ありがとう、ええと、誰だっけ、名前は………。

    「おばあちゃん、また来るね。おやすみ」

    「おやすみ」



    今もまだ永い永い夢の途中。なんだか良い夢だった気がする。しあわせだ。


    【投稿者: ことは】

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