最低の初夢

  • 超短編 2,384文字
  • 祭り

  • 著者: 3: 茶屋
  •  兎美味しいかの山。めっちゃ食べたいぶり大根。

    「というわけで……冬の山に来ました」

     なんか定期的に兎食べたくなるよね? えっならない? うそ~。
     というわけで、大学の同期である佐倉女子に来てもらいました。

    「スノボするって言われたけど……」

    「嘘だっ!」

    「言い切られるのね。それで何するの?」

    「五つのキーワードを入れながら、SF、ホラー、推理、恋愛制覇します」

    「帰っていい?」

    「車のキーは俺しかもっていないぞ」

     断固拒否である。とりあえず、女キャラだけはいる(鉄の意志)。これ置いてたら恋愛物として成立します。

    「まぁ、聞け。佐倉さんや。この山には古い言い伝えと、最近の都市伝説がいくつかあるのじゃよ」

    「ほう……ちょっと面白そうじゃん。何があるの?」

     流石佐倉女子、普段ダウナーなのに好奇心だけは尽きないおなごよのぉ。

    「一つは天狗(テング)伝説だな。大陸から白い尾を引く天狗がこの山に降りたとか。アマツイヌ伝説にも通じるねぇ」

    「ふむ。新しい都市伝説ってのは面の無い、鬼女がこの山で夜な夜な人を襲うというものだ」

    「『鬼女』って何?」

    「噂によると、のっぺらぼうの顔で白装束を着て頭にダイナミックマイク二本を巻き付けて、徘徊しているらしい。人を見ると、大きな顎を持った甲虫をオオ〇ニさん顔負けの速度で投擲してくるとのことだ」

    「鬼より怖いじゃん。でも、まぁ、甲虫なら大丈夫かも? 私結構好きだし」

    「車のガラスを貫通するらしいぞ」

    「こっわ」

    「最近では新説も出て、この山で殺されて埋められた死体が起き上がっているとか言われている」

    「急にホラーじゃん」

    「俺の判定だと推理なんだけど」

    「死体=推理 ってのは無理がない?」

    「真実を見ればわかるさ。ちなみに、謎の『鬼女』が出るのは三日月の日だそうだ」

     佐倉女子は空を見上げる。徐々に白む空には三月日が浮かんでいた。

    「誤字ってない?」

    「言わなきゃわからん。というわけで、ビバーグでもしながら待とうじゃないか」

    「……いいけど」

     憮然としながら、唇を尖らせ目線を逸らす佐倉女子、これはもう恋愛ジャンル達成ということでお願いします。
     マットを敷いて、簡易テントを立てる。カモフラして、夜間でもバッチリうつるカメラを準備したら。ガスコンロを出して、兎肉を焼き始める。

    「自分で狩りとかしないんだ……」

    「無理。処理された肉しか調理できない。鉄パンでしっかり焼いて、いくぜぇ。ソースはバルサミコ酢使おうっと」

     豪快に焼いた肉を休ませてもういちど焼くことで仲間で日を通す。丁寧にカットしたら、木製の皿に盛りつけた。
     タッパーからぶり大根を出して鍋で温める。とあら不思議、兎肉のステーキにぶり大根の完成。
     佐倉女子もこれにはご機嫌の様子。

    「うまっ、旨いじゃん。兎肉とか初めて食べたっ。アハハ、固いね」

    「それは重畳」

     鼻を赤くしてステーキを食べる佐倉女子。この子、頼みごとを断れなくて悪い人に利用されるんじゃないだろうか。
     辺りはすっかり暗くなる。寝袋に入って林の方を暗視機能付きの双眼鏡で観察をしていたら。

    「ん……ズピー」

     横の人はすっかり寝ていた。寝袋に入ってもう反応が無い。ふむ、そろそろ展開が欲しい。
     とか言ってたら、カメラに何かが映った。

    「起きろ、佐倉さん。来たぞっ!」

     ニット帽ごしに頭を一撃。

    「ズビャ! 痛いっ、叩くなっ。えっ、何っ?」

    「UFOだっ!」

    「鬼女は!?」

     林の上にぷかぷかと浮かぶ青白い光。紛れもなくUFOではないか。
     
    「思わぬSF要素っ!?」

    「SFについて勉強したほうがいいんじゃない?」

    「ドラ〇えもん読んでいるから大丈夫だ。よしっ、近づいていこう」

    「えぇ……? 怖くない?」

    「じゃあ、俺一人で行くよ」

    「その方が怖いし、一緒に行くけどさ」

     二人で着替えて、いそいそと林へと向かう。
     林からカーン、カーンと高い音が響ていた。ふよふよと浮かぶ怪しげなUFOも見える。
     音がする方へ向かうと、白い装束を着た何かが木に何かを打ち付けている。何かブツブツと呟いているようだ。

    『燃えろ鉄拳アブダクション、笑い溢れる雑木林へ正面特効カブトむっし、do or dieだぜ、明日へチョモランマ。ねればねるほどうまくなる』

    「って言ってない?」

    「言ってないよ。なんで最後知育菓子の魔女がでてくるのよ。絶対呪いの文句だって。この寒いのに絶対ヤバイ人だよ」

     カーン。

     その音が止まる。そして、ゆっくりとこちらを向くと、その顔には表情がない。というか顔そのものが無かった。

    「「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」」

     そこからはよく覚えていない。パニックになった佐倉女子に河津掛けを掛けられて後頭部を強かにうった俺の視界には空が広がり、流れ星が見えた。と思ったら流れ星が凄い勢いでこっちへ飛んでくる。白い尾を引きながらそれは彗星のようだった。

    「天狗……」

     その呟きを言い終わる前に、鬼女が『do or dieだぜ、明日へチョモランマ』としか聞こえない奇声を発しながら宙を飛んで光に突っ込んでいった。その両手に握られた顎の大きい甲虫を振りかぶり、発光体へ投げると光が炸裂した。
     横で目を回していた佐倉女子もその光で目を覚まし、空を見る。そこには美しい光景が広がっていた。

    「オーロラだ」

    「オーロラだな。これが真実か……」

    「何もわかってないじゃん。とりあえず……」

    「そうだな……」

    「「逃げよう!!!!!」」

     ダッシュで車に向かって走り出したのだった。
     翌朝、近くの道の駅の駐車場で目を覚ます。何やら騒がしい、パトカーとか特殊車両が走っているようだ。

    「ぬぅ……起きてしまった」

     佐倉女子も起きたようだ。ラジオを付けると、ニュースが流れる。

    『昨夜、企業の不法投棄により悪性のガスが発生し、山中で爆発が起こったようです。場所は……』

    「これって……」

    「俺達ガスで幻覚でも見たのか?」

    「だとしたら、最低の初夢だね」

     そう言って佐倉女子はキシシと歯を見せて笑った。

    【投稿者: 3: 茶屋】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      茶屋

      缶詰です。
      どうして我慢できないんだ。どうして!
      『顎の大きい甲虫』この言葉さえなければ、私は作者当てに頭を悩ませていたのに!
      『do or dieだぜ、明日へチョモランマ』の語感はどうやって見つけたんだ!

      今年もよろしくです。


    2. 2.

      なかまくら

      限界積読です。
      勢いがあって楽しい作品でした。
      言いたいことは、大体缶詰さんが言ってくれました笑


    3. 3.

      けにお21

      改めて、小説って自由なんだなーと、思いました。

      やれ、何ちゃらが、どうじゃないといけない、こうじゃないといけない。誰が言い始めたのか不明な、小難しい小説理論はサッサと捨てましょう。

      やりたいようにやる。
      書きたいように書く。
      材料から味付けまで作者の思いのまま。

      さて、都市伝説から始まって、最後は夢落ち的な締めくくり。流れはドタバタ劇。
      良いですねー。ドタバタは最も作者が楽しいのです。

      予想はうーん。甲虫が出てくるので、偽装でなければ、あの方かなー。ちょっと、安直過ぎる予想かのう〜


    4. 4.

      なかまくら

      この作品、二度読むと、違った面白さが出てくる気がします。
      勢いで突っ走っているようで、それぞれの要素が気持ちよく嵌まって、最後は楽しく終わって魅力がたくさんありますね。


    5. 5.

      ヒヒヒ

      魔女の弟子です。
      叙述トリック好きとしては「いったいいつから、語り手が男性だと錯覚していた?」
      とか言って、「ボーイミーツガールは未達成」のハンコを押したいです(どこへ行く
      「カミキリムシ(大きな顎を持つ甲虫)を投げつけてくる鬼女」の都市伝説の元ネタが気になりますね。
      「クワガタムシを食べる怪人」は三人くらい知ってるんですけど、たぶん関係ないだろうしなあ。