コロナ禍で出会った青い鳥【FiRST SESSiON】

  • 超短編 1,175文字
  • 日常

  • 著者: 3: 寄り道
  •  PiNOさんから「実は初めましてじゃないんですよ」と言われ目を丸くした。
     顔をじっくりと見てみたが、マスクしているせいか頭を巡らせてもピンとくる人がいなかった。というか、今までこんな綺麗な人と出会ったことあるか?
     コロナ禍だけど失礼を承知で「ごめんなさい。マスク取ってもらえますか?」と言ってみるとすんなり了承し取ってくれたが、結果は同じだった。
    「上原博美です」
     その名前を聞いて、思い出すのに二秒ほど間を置いてから「ああ!」と大声を出した。
     中学の文化祭で、ピアノを弾いていた人だった。
     思い出せるはずはなかった。記憶にある上原さんは中学時代だし、大人になり化粧をしたらもう別人だ。
    「お久し振りです」改めて挨拶し「すみません。思い出せなくて」と謝った。
    「十年以上も前のことだから、忘れているのも当然ですよね」
     久々の同級生との再会に胸が躍ったが、よくよく考えてみると、疑問に思う点が幾つもあった。
     東口近くにあるスタバに入店し、点在した疑問を一つずつ繋ぎ合わせて行った。
     僕はドリップコーヒーを、上原さんはキャラメルマキアートを飲みながら「なるほどね。YouTubeで僕の歌が流れて来て、気に入ってくれたと」
     初めてYouTubeに投稿した動画はオリジナルソング。それを気に入ってくれたと言われ嬉しくもあり、なんだか心がこそばゆくなった。
     にやけを隠すため口にするコーヒーがやけに進む。
     僕からの話は続く。
    「それでセッションするなんて、本当にありがとうございます」
     DMで何度も礼を言ったが、改めてここでも謝辞を述べた。
    「気に入ってくれたのなら良かったです」
    「それにしても、よく僕だと気づきましたね」
    「会うまでは確証は持てなかったですけど、松井君がTwitterで最初に上げたカヴァー曲が、文化祭で披露した曲だったので」
    「やっぱり、最初は一番好きな曲じゃないと」
    「ですよ!」
     セッションしたPiNOさんが中学の同級生で、今こうして向かい合わせでコーヒーを飲んでいる状況に、まだ慣れていない。
     したことはないし年齢も同じだからこんなたとえは可笑しいのだが、初めてのパパ活や援交の男の心情ってこんな感じなのかなあと、変な思考が頭を掻き乱す。
     文化祭の話になり、あれがこれから先もギターを弾くきっかけになったこというと「私もです」と賛同された。
     一時間くらいスタバで話し、終わりに「これから一緒に活動して行きませんか?」とはにかみながら誘うと「いいですね」と笑顔をもらった。
     LINEを交換したが、一緒に活動して行くといっても、そんなしょっちゅう会えるような距離にお互いが住んでいないためリモートになるだろうし、コロナで暇ではあるも、僕はバイト、上原さんは学業とバイトの両立で忙しいため、お互いが歌詞を作り、メロディーが完成したら報告するという従来の形は保ったまま活動して行くことにした。

    【投稿者: 3: 寄り道】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      >「ああ!」と大声を出した。
      というのが、なんだか松井くんらしいです。ここまでで彼のキャラが確立している感じがしました。