1.
朝、目が覚めると枕がひどく濡れていた。
これは、オネーションという小さい頃によく咲かせてしまう花を今更咲かせてしまったのか、と驚いたが、なにやら様子がおかしい。あごを伝う液体を、手を動かして触れようとした。サワリとした感触。産毛が生えていた。そして、妙に腕が太くなり、指先がかろうじてあごに触れていた。慌てて、洗面台の前に立ち、鏡を見る。唇がずいぶんとめくれ上がっており、歯が飛び出している。上半身は大きく大きくなっており、下半身は随分と小さかった。服を脱ぎ捨てると、全身から一気に羽が飛び散った。驚きの声を上げようとして、「クワッ!」と鳴き声が漏れた。明け方のまだ淡い太陽が差し込む窓から、飛び立って、消えた。
2.
ずいぶんと眩しいな、と感じたのは、海から上がったときだった。
砂浜にどう、と倒れ込んでしまう。何故だろうか、起き上がろうと腕に力を入れるのだが、空を搔く弱々しい反応が返ってくるばかりだ。そよ風が吹くと、目と喉(のど)がひどく渇いた。思わず閉じようとして、瞼(まぶた)からの応答がないことに気づいた。一方、何故だろうか、胴体に力が漲(みなぎ)るようだった。その力を目一杯使って激しく反り返ると、身体が宙に投げ出される。皮膚が銀色の陽光を跳ね返していく。波を被(かぶ)ると、水を得た喜びに溢れた。一目散に飛び込み、力の限り泳いだ。砂浜の向こうはもう見えなかった。
3.
よく考えると、正義について考えていた。正しいとはなんだろうか。
この正しさになんらかの答えが与えられなければ、ここから一歩も歩けないことに気づいた。いや待ってほしい。“歩”とは何だろう。少ししか止まらないことだろうか。いや、少しだけ立ち止まることができるということではないか。それがいい。それをなすためには、いくつかの、先が細くなった“足”というものが必要だろう。面積が小さい方が、摩擦が大きくはたらくのだから。そういえば、私には思えばそういうものがついている。
そうだ、正義について考えていたのだった。この正しさになんらかの答えが与えられなければ、せっかく見つけた足があっても、一歩も動けないのだ。それは力なく、風に揺れる一本の葦(あし)と何が違うだろうか。
私とはなんだろうか。何になろうとしているのだろうか。何者かになったとき、何ができるのだろうか。
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