ト書き:このシナリオは、全編通してラスト近くまで、走りながら話している感じで読んで下さい。
男:お嬢さーん! お嬢さん!
女:あれ?
男:お嬢さーん! お嬢さんったら!
女:私ですか?
男:そう、あなた!
女:なんですか?
男:いや、お嬢さん、走ってないで、立ち止まってよ。
女:嫌です。
男:ええっ? いや、お嬢さん、これ、落としましたよ。
女:お、落としてません!
男:いーえ、落としました。
女:落としてませんったら!
男:いーえ、落としました。私、ハッキリ、見ましたから。
女:自信満々ですね。
男:はい、これは、間違いなくあなたが落したものです。
女:それ、要りません。
男:はぁ?
女:それ、要りませんから、あなたが捨てて下さい。
男:嫌です。自分で捨てて下さい。責任持って。
女:うるっさいなぁ! あんたが捨てろ!
男:嫌ですね。そういうの嫌いなんです。
女:ふんっ! それはね、爆弾なの! もうすぐ爆発するわ。早く捨てないとあなたも死ぬわよ。
男:ふーん。
女:あなた、なんでついてくるの? 早く爆弾捨てないと死ぬわよ。
男:こんな都会のど真ん中じゃ、どこに捨てても、たくさんの人が死ぬよ。
女:あなたは助かるでしょう!
男:自分かわいさに人ごみの中に爆弾捨てるってのもねぇ?
女:馬鹿なの? いえ、ごめんなさい。あなたが立派な人だってのは分かったから、私から、離れてくれる?
男:嫌だね。
女:なんでよ?
男:あんたなら、自分かわいさに、爆弾止めてくれるかもしれないから。
女:私は、ただ、爆弾を落とすだけのしたっぱよ。爆弾の止め方なんて知らないわ。
男:どうだか?
女:本当なの!
男:なんにしても、この辺に、爆弾を触ったことのある人間なんて、あんたくらいしか居ないだろう。俺は、あんたを頼るしかないんだ。
女:私は、テロリストなのよ!
男:だから、テロリストなら、爆弾の止め方くらい……。
女:知らないのよ!
男:しかし、爆弾はもうすぐ爆発するんだろう? 警察を呼んでも、とても間に合うとは思えない。
女:そこは、普通、警察を呼ぶでしょう?
男:あんたが言ったんだ。「もうすぐ爆発する」ってな。
女:それは、噓だと言ったら?
男:信じる馬鹿がいると思うか?
女:あなた、私を女だと思ってなめてるんでしょうけど、テロリストの体力をなめない方がいいわよ。
男:あんたこそ、俺をなめてるだろう? 俺は、昔、箱根駅伝で5区を任されていた男だ。日頃のトレーニングも欠かしちゃいない。振り切れると思うな。
女:それ、本当?
男:信じる、信じないは勝手だ。
女:とにかく、警察に任せるのが常識でしょう?
男:まさか、かけっこしながら、テロリストに常識、説(と)かれる日が来るとはねぇ。
女:あんた、なんなの?
男:さぁ、なんでしょう?
女:チックショー!
男:お口が悪うございますわよ。
女:あなたは、なんで、そんなに余裕なの? あ、爆弾の話、信じてないの?
男:冗談でこんなに必死に走る女はいないね。
女:普通、自分かわいさに爆弾、捨てるでしょう?
男:普通なんざ、くそくらえだ。
女:なんでなの? なんで、あなたが爆弾拾うのよ? 私は、このミッションで英雄になるはずだったのに!
男:何十、何百という命を奪った英雄かい?
女:平和ボケしたあんたたちに言われたくない!
男:おいおい、しっかりしろよ。俺が何人に見えてるんだ? 「たち」ってなんだよ? 「たち」って?
女:違う! 私たちが戦っているのは……。
男:余裕だなぁ? 「私たち」と「あなたたち」なんて、忘れろよ。自分と今、目の前にいる、クソ憎ったらしい男とのかけっこに集中しろよ。でねぇと……、死ぬぜ。
ト書き:両者、立ち止まる。息を乱しながら、話す感じでお願いします。
女:「私」と「おまえ」の?
男:ああ、そうだ。
女:「私たち」ではなく、「私」?
男:そうだ。おまえは、生きるのか? 死ぬのか? 自分で選べ。
女:私は……、生きたい。
男:爆弾、止められるか?
女:止められる。貸せ。
男:はいよ。……警察、呼ぶぞ。
女:……おまえは、ひどい男だ。
男:今さら、だな。
女:ああ、そうだな。
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