【声劇台本】危険な駆けっこ

  • 超短編 1,638文字
  • 日常

  • 著者: でんでろmk2
  • ト書き:このシナリオは、全編通してラスト近くまで、走りながら話している感じで読んで下さい。

    男:お嬢さーん! お嬢さん!

    女:あれ?

    男:お嬢さーん! お嬢さんったら!

    女:私ですか?

    男:そう、あなた!

    女:なんですか?

    男:いや、お嬢さん、走ってないで、立ち止まってよ。

    女:嫌です。

    男:ええっ? いや、お嬢さん、これ、落としましたよ。

    女:お、落としてません!

    男:いーえ、落としました。

    女:落としてませんったら!

    男:いーえ、落としました。私、ハッキリ、見ましたから。

    女:自信満々ですね。

    男:はい、これは、間違いなくあなたが落したものです。

    女:それ、要りません。

    男:はぁ?

    女:それ、要りませんから、あなたが捨てて下さい。

    男:嫌です。自分で捨てて下さい。責任持って。

    女:うるっさいなぁ! あんたが捨てろ!

    男:嫌ですね。そういうの嫌いなんです。

    女:ふんっ! それはね、爆弾なの! もうすぐ爆発するわ。早く捨てないとあなたも死ぬわよ。

    男:ふーん。

    女:あなた、なんでついてくるの? 早く爆弾捨てないと死ぬわよ。

    男:こんな都会のど真ん中じゃ、どこに捨てても、たくさんの人が死ぬよ。

    女:あなたは助かるでしょう!

    男:自分かわいさに人ごみの中に爆弾捨てるってのもねぇ?

    女:馬鹿なの? いえ、ごめんなさい。あなたが立派な人だってのは分かったから、私から、離れてくれる?

    男:嫌だね。

    女:なんでよ?

    男:あんたなら、自分かわいさに、爆弾止めてくれるかもしれないから。

    女:私は、ただ、爆弾を落とすだけのしたっぱよ。爆弾の止め方なんて知らないわ。

    男:どうだか?

    女:本当なの!

    男:なんにしても、この辺に、爆弾を触ったことのある人間なんて、あんたくらいしか居ないだろう。俺は、あんたを頼るしかないんだ。

    女:私は、テロリストなのよ!

    男:だから、テロリストなら、爆弾の止め方くらい……。

    女:知らないのよ!

    男:しかし、爆弾はもうすぐ爆発するんだろう? 警察を呼んでも、とても間に合うとは思えない。

    女:そこは、普通、警察を呼ぶでしょう?

    男:あんたが言ったんだ。「もうすぐ爆発する」ってな。

    女:それは、噓だと言ったら?

    男:信じる馬鹿がいると思うか?

    女:あなた、私を女だと思ってなめてるんでしょうけど、テロリストの体力をなめない方がいいわよ。

    男:あんたこそ、俺をなめてるだろう? 俺は、昔、箱根駅伝で5区を任されていた男だ。日頃のトレーニングも欠かしちゃいない。振り切れると思うな。

    女:それ、本当?

    男:信じる、信じないは勝手だ。

    女:とにかく、警察に任せるのが常識でしょう?

    男:まさか、かけっこしながら、テロリストに常識、説(と)かれる日が来るとはねぇ。

    女:あんた、なんなの?

    男:さぁ、なんでしょう?

    女:チックショー!

    男:お口が悪うございますわよ。

    女:あなたは、なんで、そんなに余裕なの? あ、爆弾の話、信じてないの?

    男:冗談でこんなに必死に走る女はいないね。

    女:普通、自分かわいさに爆弾、捨てるでしょう?

    男:普通なんざ、くそくらえだ。

    女:なんでなの? なんで、あなたが爆弾拾うのよ? 私は、このミッションで英雄になるはずだったのに!

    男:何十、何百という命を奪った英雄かい?

    女:平和ボケしたあんたたちに言われたくない!

    男:おいおい、しっかりしろよ。俺が何人に見えてるんだ? 「たち」ってなんだよ? 「たち」って?

    女:違う! 私たちが戦っているのは……。

    男:余裕だなぁ? 「私たち」と「あなたたち」なんて、忘れろよ。自分と今、目の前にいる、クソ憎ったらしい男とのかけっこに集中しろよ。でねぇと……、死ぬぜ。

    ト書き:両者、立ち止まる。息を乱しながら、話す感じでお願いします。

    女:「私」と「おまえ」の?

    男:ああ、そうだ。

    女:「私たち」ではなく、「私」?

    男:そうだ。おまえは、生きるのか? 死ぬのか? 自分で選べ。

    女:私は……、生きたい。

    男:爆弾、止められるか?

    女:止められる。貸せ。

    男:はいよ。……警察、呼ぶぞ。

    女:……おまえは、ひどい男だ。

    男:今さら、だな。

    女:ああ、そうだな。

    【投稿者: でんでろmk2】

    一覧に戻る

    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      お久しぶりです。
      森のクマさん的なほのぼのを想像していたら、格好いい感じでした。
      立場が途中で逆転しているところがいいですね。


    2. 2.

      でんでろmk2

      そうですね。タイトルは「デンジャラス・ラン」とかも考えたんですけど、セリフに「駆けっこ」という言葉が出て来るので、こちらにしました。ありがとうございます。