生まれて間もなく、僕は瓶に閉じ込められた。
いつも外の世界を、瓶のなかから覗き続けていた。
もしかしたら、僕よりこの世界は汚れているのかもしれない。
汚れなき自分の姿を、どこか誇りに思っていた。
きっと一生外へ出ることは出来ないと思っていた。
けれど、その日は突然やってきた。
キラキラした瞳が僕を覗いていた。
「お母さん、私ラムネ欲しい。」
其の一言で、僕は少女に買われた。
僕は緊張や不安よりも、自分よりキラキラした其の瞳に胸が高鳴っていた。
少女は力を振り絞って、泡と共に僕を瓶の外へ連れ出した。
飛び出した僕を優しい手つきで、そっと包み込んでくれた。
あったかくて、あったかくて。
僕に滴る糖の水滴が、何故か自分から発せられた感動によるモノだと錯覚までしていた。
家に帰ると少女は、僕を”たからもの”と描かれた瓶の中に閉じ込めた。
居心地が良かった。少女の色んな瞳を見ていた。
嬉しそうに輝く瞳、楽しそうに微笑む瞳、怒ったように力のこもった瞳、悲しそうに涙を浮かべた瞳。
僕は何もしてあげられなくて、無力感に押し潰されそうになるけれど彼女は時折僕を掌に乗せては優しく微笑んだ。
やがて、歳を取った少女はいつしか僕のことを忘れていった。僕は少女の瞳が日に日に輝きを失っていくのをただ見ているばかりだった。
何をしてあげられるかは分からないけれど「動かなければ」そんな思いが芽生えていた。
そして、ある日少女は奇声をあげながら部屋にあるものを次々に壊していった。
其の手は”たからもの”と描かれた僕が入る瓶にまで手が伸びた。少女は瓶を持ち上げると、思い切り地面に叩きつけた。
「ガシャン」
瓶は粉々に割れて、僕はころころ転がりはじめた。
「少女の元へいかなければ」
少女の足元を目指して僕はころころ転がった。
ころころころころ、転がって。
遂に少女の足下へと届いた。
つめたくて、つめたくて。
僕にできる事は何もないことを思い知らされた。でも僕は自分にできる、自分のしたいことを続けるように少女の足へと目掛けてころがりつづけた。
少女はふと、僕をつまみあげた。
少女の瞳は悲しみに満ちていた。僕を見つめるその眼差しは、どこか僕を羨むようなそんな瞳に見えていた。
君の手はとても暖かくて僕は君のことが大好きだ。
やがて少女は手放して、僕はころころ転がった。
きっと今もまだ、どこかで君を探している。
ころころころころ、転がって。
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