空に語る少年

  • 超短編 1,074文字
  • 日常

  • 著者: 1: ごどり

  •  笑顔の消えた街に、不思議な言葉を話す少年がおりました。名前は、やどりといいその街で唯一笑顔を持っています。「にぇ、つぃらんで。みにぃりあ、ふら、えうでぅいあ。」今日も少年は、空を仰いでは不思議な言葉を話します。その様子を見ている人々は、彼を指差し軽蔑しました。
    「またあの子ったら馬鹿げたことをしている。」「恥ずかしいやつ。」「現実で何か嫌な事があったに違いない。」「あれはきっと、何かの病気よ。」
    彼の両親さえも、もう呆れており”恥ずかしいから止めてくれ”との一点張りです。

     それでも、彼から笑顔が消えた日はありませんでした。
    少年は毎日外に出ては、空を仰ぎ笑顔で不思議な言葉を語ります。

     そんな様子を部屋の窓から、真剣にみている少女がおりました。名前は、ほたるといい少女は心に石を抱える病気にかかっておりました。

     ある日、ほたるは思い切ってやどりの元を尋ねました。「どうして笑っていられるの?」
    やどりは困った様な顔を浮かべて、答えました。
    「僕が、笑っている様に見える?」
    「いつも空にヘンテコな言葉をかけて笑っているじゃない。」
    「・・・。」
     やどりは黙りました。暫しの沈黙の後、ほたるは流れを変える様に大きな声で言いました。
    「私も笑いたいの。どうしたら笑える様になる?」
     やどりは答えました。
    「・・・ごめんね。僕にはその方法がわからない。僕は今、出来ることをただ続けているだけなんだ。」
    「何よそれ、ねぇ、空にはあなたの話し相手がいるの?」やどりにとって、その質問は何度もされ続けた聞き飽きた質問でした。そして、その質問に対してごどりは決まってこう答えるのでした。
    「どうだろうね。」
    「どうだろうねって貴方、私をバカにしてるの?」
    「ううん、していないよ。いると言っても嘘になるし、いないといえば全てが無駄になる、それにきっと笑えなくなる。」
     ほたるは、やどりの言っている事がすぐには理解できませんでした。
    それでも何だか、距離を感じたので
    「ふうん。」と言って、そうそうに去って行きました。

     しかし、それからも少女は毎日家の窓から笑って不思議な言葉を語るやどりを覗きました。
    すると、いつしかやどりの周りには、ポツポツと人が集まってきてやどりの様に空へ不思議な言葉を語る人々が増えました。大人は、其れを「この世の終わり」とでも言う様に、危惧しましたがやどりの元に集まった彼らもまた笑顔で楽しそうに空へ語っているのでした。
    そんなみんなの様子をやどりが微笑んでいる様に見ている姿を見て、ハッと気づいたほたるは一人涙を流しました。

     今もどこかで、少年は空に不思議な言葉を語るでしょう。

    【投稿者: 1: ごどり】

    一覧に戻る

    コメント一覧 

    1. 1.

      けにお21

      不思議なお話で、引き込まれました。

      しかし、謎が、謎のままで終わっていて、思わず「教えてよー」と言いたくなりましたw


    2. 2.

      ごどり

      >>けにお21さん

      コメントありがとうございます。貴重なご意見ありがとうございます。
      人に何かしら神を授けようと思うと、騙しに似た何かを応用させることがあります。
      彼は、自分にできる範囲の中でどうすれば笑顔を広められるのか実践している最中にあります。
      また、其の挑戦というのは確かに馬鹿げていて街のみんなからは笑われたりすることがあるでしょう。
      けれど、彼は毎日それを続けて遂には宿願とも呼べるべき笑顔を取り戻すことに成功します。
      不思議な言葉と称しているのは、読んでいる方々にとって個性なかんずく専門性が何かしらあることだと思っています。
      その個性を極めると、時折一般の道から逸脱し誰かにとっては意味不明な言葉にもなっていることだってあるかもしれません。激励・可能性への挑戦、そんな意味合いも込めてこの物語を創作させていただきました。
      精進させていただきます。