サンセット

  • 超短編 2,637文字
  • 祭り

  • 著者: 1: 9: けにお21

  • 先生「また、算数100点だ。君はすごいな。」
    俺は、教室で拍手を浴びるなか、100点と書かれた解答用紙を受け取った。

    俺はそう。
    若い頃は、とても優秀だった。
    特に算数が得意で、だいたいテストは100点か、悪くても95点だった。

    その頃の俺は、将来、望むもの、何にでも成れると思っていた。
    なんなら、世界征服を成し遂げる力だって、あると思っていた。

    しかし、現実はどうだ。

    中学、高校と、徐々に学力は伸び悩み、大学受験に失敗した。

    就職を目指したが、ことごとく失敗し、学卒後は、しばらくアルバイトをする生活を続けた。

    しかし、アルバイトでは大した稼ぎにならず、正社員からは偉そうな物言いで、アホ扱いされ、それでカッとなり正社員に殴り、そのアルバイトは首になった。
    他にも、アルバイトを転々としたが、どれも長続きはしなかった。
    どうやら、俺には学力だけではなく、コミニケーション能力とやらも低いようだ。
    コミュ力が不要そうな、日雇いの土木作業員なるものもやってはみたが、体がキツくてヤメた。
    工場で働いてみたが、単調すぎて、飽きてしまい、続かなかった。

    結果、実家の部屋に引きこもった。

    もちろん、親からは、いろいろ言われるが、仕方ない。

    俺は、社会不適合者、なのだから。

    社会の中に溶け込めないし、体を使って働くだけの体力も根性もない。

    申し訳ない。
    情けない。
    悔しい。

    世界を見るどころか、俺は部屋の中で、毎日、酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出す、事しかしていない。
    違うな。
    稼ぐ事すら出来ない、親の血を吸うヒルだ。
    存在自体が悪なのだ。

    そんなある日、俺は、手首をカットした。

    部屋の中で青くなっているところを、親に助け出されたらしい。

    病院で、俺は、親にこう言った。

    「どうして、俺を見捨てないのだ? 社会で通用しない俺に生きる価値はないぞ。あんたらに吸着して、あんたらにとっても、迷惑な存在なのだぞ! 邪魔だろ。死なせてくれよ!」

    母は泣きながら、こう言った。

    「私は、私は、けっして、あなたを捨てないわ。あなたは、私が産んだ大切な子なのだから。私達が頑張って働いて、食べさせてあげるわ。ねえ父さん。」

    父「。。。、うむ。」

    俺は、言葉に窮し、うなだれた。

    なんと、お人好しの親なのだ。

    同時に、俺は、死ぬことすら、まともに出来ない人間であることを悟った。
    実は、リストカット時、親に助けてもらえるように、少し部屋を開けておいたのだ。

    俺は、社会不適合者であると同時に甘ったれなのだ。

    ともかく、それ以降、俺は考えることを止めた。
    手首をカットして、また親に迷惑をかけてはいけないから。

    そのかわり、部屋の中でゲームに没頭することにした。
    俗世を離れ、現実から目を背け、ゲームの中で生きることにした。

    飯やゲームは、親が用意してくれる。

    もちろん、継続して、ゲームばかりやっていると、脳が発酵する。

    そんな時には、テレビをつけて、脳への酸素の入れ替えしてあげるのだ。

    ただし、テレビをつけると、そこには人間社会と現実が映し出される。

    人間社会を目の当たりにすると、自身の不甲斐なさや、未来への絶望から、呼吸をすることすら辛くなり、思わずカッターナイフに手が伸びる。

    慌てて、社会の窓であるテレビを消して、息を整え、ナイフをしまう。

    ただでさえ迷惑を掛けている両親に、これ以上の迷惑を掛けては駄目と分かっているためだ。

    お菓子を取り出し、むしゃむしゃと食べる。
    腹が膨れると、眠たくなるからだ。

    食べ終えると、耳栓、アイマスクをつけて、布団に横になり、目を瞑る。

    ゲームをし続けると、脳が発酵する。
    テレビをつけると、リストカットしそうになる。
    お菓子を食べて、腹を満たして、寝る。

    これの繰り返しの毎日だ。
    そのため、体重はゆうに100kgを超えている。

    ある日、ゲームをしていると、人間の噂を聞いた。

    俺がやっているゲームの世界は、エルフやドアーフと言った、擬似人間は出てくるものの、人間は一切出てこない。
    俺は、人間社会が大の苦手だから、人間が出てこないゲームを選んで買って、それで遊んでいる。

    そう、人間を一切、排除したゲームのはずなのに、なぜ人間が現れるのだ?
    俺は、自分の目を疑った。

    しかし、その噂は、隣に住むドアーフの『ポポロおじさん』から聞いたので、間違いない。
    『ポポロおじさん』は、嘘をつかないことで有名なおじさんなのだ。

    『ポポロおじさん』が言うには、10月31日のハロウィンの日に、イベントで、人間が町に出現し、徘徊するそうだ。

    俺は思わず、怒りから、ゲームコントローラーを持つ手が震えていることが自分でも分かった。

    俺は『ポポロおじさん』にこう言った。

    俺「どうして、人間が現れるんだい。せっかく平和な世界なのに、人間が来ると、競争が生まれ、足の引っ張り合いや、虚栄心や、優越心など、よくない事を植え付けられるぞ。腐ったみかんは周りをも腐らせると言った感じで、人間は、この平和な世界に災いを持ち込み、それを広めてしまう。俺は、人間が現れることに断固反対だ。人間なんていなくたって、こうやって、皆平和に楽しくやってきたじゃないか。人間なんてクソくらえだ!」

    ポポロおじさん
    「分かっとらんな! 今年のハロウィンは、お前のために、人間を出現させるイベントにしたんじゃ! 隠しても、わしは知っとるぞ。お前自身、実際には人間なのだろう。たまには、人間に触れて、目を覚さないと、お前の人生、ゲームの中だけで終わってしまうぞい。そうじゃなあ・・・人生を一日に例えるなら、太陽が登った時が生まれた時じゃ。そして、太陽が沈むと、死んだ時じゃ。お前は、もう40歳なのじゃから、人生で言うところの、サンセット(日が暮れようとしている)の時期に差し掛かろうとしている、と言える。いいか、人生ってのは、後悔しても巻き戻しは出来ないぞ。10月31日のハロウィンで、見事、人間を受け入れて、これを機会に人間と仲良くするのじゃ。そして、人間に慣れたら、人間世界に足を踏み出すのじゃ! 今ならまだ、間に合う。まだ戻れる。わしらもお前の復帰に応援するぞい!」

    いつの間にか、ゲームの画面内、ポポロおじさんだけでなく、他の仲間達も出て来て、皆が俺を応援してくれていた。

    俺は、ゲームコントローラーを強く握りしめた。

    ・・・みんな、ありがとう!

    10月31日、俺は、ピンと跳ねたアホ毛を切って身なりを整えると、町のハロウィン会場に向かって颯爽と歩き始めた。

    しばらくすると、全国の引きこもりの人間達も、会場に集まりだしたのだった。

    【投稿者: 1: 9: けにお21】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      ヒヒヒ

      ハロウィンの日に人間が現れるという、一種の逆転が面白いと思いました。
      「お祭りの時にだけ、非日常の住人がじぶんたちの世界にやってくる」伝承は
      世界各地にありますが、今ではエルフやドアーフの方が日常的になっているところもあるのかもですね。


    2. 2.

      茶屋

      <アメジスト・トリトゴメス二世>と申します。
      ポポロでクロイスな物語をしていた私は、あの頃未知を愛していました。
      今も求めています。文章の果てにきっとあるのだと信じています。
      人間のいない世界は魅力的でしょう。私もその世界に住みたい。
      しかし、私は人間なので外へ行きます。
      主人公にとって外へでることは身を切る痛みでしょうが、どうせ周りも人間です。
      疲れた時、憩いの場ではきっとポポロな爺さんがいてくれるでしょう。
      どうせ爺さんも人間なのです。それなら外もまぁまぁよいと思いたいです。


    3. 3.

      けにお21

      ポポロおじさんとやらのキャラクターがユニークでした。
      人間界に戻れる事を祈ります。
      こう言ったファンタジックな物語りは、きっとあの方の。
      まあ、茶でも飲みましょう。


    4. 4.

      ヒヒヒ

      にわのはにわです。
      不遇な境遇で蓄積した憤懣を、いかに推進力に変えるか。
      彼の場合はフィクションの中に住む心優しいお爺さんが
      きっかけだった。このお話、これから先にも物語がありそうですね。
      題材と調理のしかたから見て、作者はけにおさんと予想します。


    5. 5.

      なかまくら

      立方格子です。好きなものやことを通して社会に復帰する・・・。その中にゲームがあってもいいと思いますね。
      最後は感動的で、社会復帰できたような錯覚がありますが、よく考えるとゲームの中で人間に会ったということなんですよね笑 ポポロおじさんのお説教が熱くて好きです。作者さんはけにおさんでしょう。