昨今の気象状況を思案するとき、人々はあまりよくないイメージを抱くようになってきている。例年にない劇的な人為的自然現象、人々は常に天気図と外気温の予測情報に深いため息を漏らしながら、もはや悪天候を伝える気象予報士の言葉、錯そうするFAKEニュースにも、明日を夢みてほほえむことなど、とてもじゃないが難しい。

　あたしは、このことを事実として感じている。

　あたしがオズワルドと一緒にリビングのソファに座っていたとき、有機ELスクリーン上の、気象予報士がにこやかに話しかけてきた。

　｢ みなさん、ミシガン州は、いったいいつごろから安全になるのだろう、と考えているかと。
　ですが、世界はますます悪化していきます。なぜ、でしょうか、状況を理解できますか？ ｣

　｢ あの野郎！ 許せない ｣　と、オズワルトが有機ELスクリーンテレビに詰め寄る。

　あたしは彼を引き留めながら、｢ 世界が悪いのは彼のせいじゃないんだよ ｣　と、諭す。

　｢ なぜ？　なぜあいつは笑いながら話しているんだ？　ジャクリーン女史なら、トランプ大統領の口（攻）撃を伝えるときには笑ったりはしないぞ ｣

　スクリーン上の気象予報士は、バックグラウンドに投影された米国合衆国地図の前に立っている。
　
　｢ 人工衛星からの情報を地図上に重ねてみましょう。この、白い、社会虚構のようなもやもやは合衆国東部が曇り、外気温は氷点下、雪、非常に冷たい風が全世界から吹き荒れることを示しています。そして視点を平行移動すると南カリフォルニア、バークレーの暴動のような、まったく白いもやもやはなく、好天、外気温は二十四度ほど、すばらしい天気です。寛容と忍耐、神は何かを試させている、のでしょうか？｣

　｢ サディストだ ｣ と、オズワルトがいう。｢ ミシガン上空にある白いもやもやを指さして楽しんでいるんだ！ ｣
ソファ横の、赤茶色の小型ワインクーラーから、”Bon Marche"、赤ワインをとり出しながら、あたしはオズワルトを再び諭す。
　｢ 仕事なんだから仕方がないんでしょう。きっと、彼も白いもやもやなんていやに決まっているよ ｣

　スクリーン上の気象予報士は天気予報を続けている。
　｢ 例年にない寒さはカナダから押しよせきた寒冷前線の影響です。これさえ無ければ、もう少しは、ミシガンも暖かくなるのですが…… ｣

　｢ 畜生！｣ と、オズワルトが叫ぶ。
　｢ カナダ！　なぜ、そんなものをミシガンに押しつけるんだ？　まだまだ寒冷前線を押しつける気なら、バンクーバーに核攻撃を仕掛けてやる、となぜ、合衆国大統領は通告しないんだ？ ｣

　｢ カナダが悪いわけじゃないんだよ。たぶん、北極で発生した寒冷前線がカナダを通りすぎただけ、だと思うよ ｣　

　スクリーン上の気象予報士は依然として天気予報を続けている。　
　｢ 実をいいますと、カナダからの寒冷前線ばかりではありません。メキシコ国境沿いの街からの寒冷前線がミシガン上空をめざして、今か今かと出番を控えているのです ｣

　｢ あぅ！　北ばかりが敵じゃないのか ｣　と、オズワルドが叫ぶ。
　｢ メキシコの連中もカナダと同じさ。他人の迷惑なんて、なんにも感じていないんだな ｣

　｢　メキシコの人たちもたいへんなんだよ ｣ と、あたしは少し、諭すことに疲れはじめている。

　あたしたちは、有機ELスクリーン上の気象予報士に視線を戻す。

　｢ そしてポイントです。ミシガン上空、わずかに残された暖かい空気の低気圧と、南北からの冷やされた高気圧がぶつかりあって、大雪、五十センチほどの降雪がミシガン全土に降り注ぐ可能性がありますから気をつけてください ｣

　オズワルトが靴を有機ELスクリーンへと投げつける。気象予報士はくすくすと笑いながら、伝えて続けている。

　｢ ですので、格好などはあまり気にせず、暖かい下着、防寒着とひざまである長靴を着用して、スノースコップで雪かきできるように準備してください。
　　まぁ、車のエンジンが掛かるようでしたのなら、今朝のわたしたちよりも運がいいと思いますよ ｣

いつのまにやら気象予報士は操り人形を携えており、習いたての腹話術なのか、戯けながら報道を続けている。

　｢ ハニー、もしも明日の朝、外気温が零下十八度、風速四十八メートル、体感温度がマイナス三十度を下まわるとしたのなら、車のエンジンは掛かりにくい。さて、どうします？ ｣ と、気象予報士は操り人形へと問いかける。

　操り人形のハニーはくぐもった声で答える。

『 薄着の奥さんを外に出してエンジンを掛けさせるさ。ハハ、ハハ、ハハ 』

　オズワルトはソファから床へと倒れ込みながら、うめいている。

　｢ やっぱり、あいつは許せない…… ｣

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