私は、いつしか夢を見ている。とても幸せな夢。
この夢が醒めぬ事を私は願い、今日も祈っている。
「お母さん、ありがとう」私の教室ー特別擁護教室ーまで、私を乗せた車椅子を押してくれた事を感謝する。
「いいのよ、楽しんでね」お母さんは私に微笑み、いつもの優しい調子で声を掛ける。
「では、先生。今日も栞の事お願いします。」お母さんは岬先生を一瞥し、頭を下げる。
「はい。もちろんです。お気をつけてお帰りくださいね。」岬先生もお母さんに頭を下げて答える。
お母さんが教室から姿を消すと、岬先生は私にニヤニヤした様子で私に話しかける。
「それでぇ、栞。今日も何だか楽しそうねえ。」
さっきまでの真剣な様子とのギャップが、実に岬先生らしい笑
「ふふっ、楽しいですよ。楽しいです!」
心から溢れる暖かな光に身を委ねて、そう答える。
岬先生の口角はさらに上がって、先生は話す。
「栞ちゃんは、なにがそんなに楽しいのかな〜〜〜???」
「もぉ〜〜〜!!!」
「かーわいっ!今日も来るといいわね。」
「んぐぅ〜〜!!」
周りにいた学年は違うけど同じ教室のクラスメイトが私を見てニヤけている。
「もぉ、みんなもそんな顔しないでよ〜!」
「青春ですねえ〜!」とか「ひゅーひゅー!」なんて声が上がる。
私は正直、恥ずかしかったけどみんなも何だか楽しそうな顔をしていたから其れも含めて楽しくなる。
岬先生は、そんな私たちの様子を暖かく見守っている。
暫くみんなと話していると「さてと、それでは朝の朝礼を始めます。」って岬先生が声を掛ける。
朝礼が終わるのとほぼ同時、ガラガラと教室の扉が開く。
「栞、今日も学校来たんだ!」
教室を訪ねた一葉が一目散に私の方に向かって満面の笑みで歩いてくる。
嬉しい。嬉しい。
「うん。ねぇ、一葉。図書室行きたい。」
「うん。いいよ。」
そういうと一葉は私の後ろへ周り、車椅子の持ち手に手を掛ける。
「岬先生、ちょっと真白さん連れて図書室行ってきますね。一限が始まるまでには戻りますので。」
「はい。あまり無理をさせないようにね。」
「分かりました。」
一葉は岬先生にそう言うと、私を押して廊下に出た。
図書室へ向かって歩いていると、一葉が私の後ろから声を掛ける。
「何か読みたい本でもあるの?」
この声をいつまでも聞いていたい。
「ううん。廊下に出て一葉と一緒に外の空気を吸いたかったの。其れに教室だと皆の視線が集中しちゃう笑」
「・・・そっか、皆んなも栞と話したいよな。」
「違うの!皆とは、これまでも話してきたし一緒に授業受けるからいいの!そうじゃなくて」
私の必死さで意図が伝わったのか、一葉は私に笑いかける。
「なるほどね、僕が栞と話してるとラブラブな感じがしてって面白がるのか笑」
「ふふっ」思わず笑みが溢れる。
「いいね、今日の天気も。」
一葉がふと幸福を噛みしめる様に言う。
廊下に差し込む秋の柔らかな光。涼しく頬を抜ける優しい風。
「うん、いいね。」
「最高です。」
一葉がすごく嬉しそう。私もすごく幸せ。
(この夢が、どうか醒めない様に。)
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