星が知る #1

  • 超短編 2,428文字
  • 日常

  • 著者: 1: ごどり

  •  とある街に、星を眺めることが大好きな少年がいた。
    少年の名は、琥珀。
    学校では、気さくでまた誰にも優しい少年だった。
    容姿も美形であったことから、女子からも好かれた。
    家族とも仲が良く、其れは幸せな日々であったと後に少年は語った。

     雨がひたひたと路面を濡らす、梅雨の到来を想起させる時期の話だ。
    俺の友人である大輔と、一緒に談笑しながら学校から帰っていたんだ。
    彼はなんでも、クラスにいる琥珀の事が憎いらしい。
    琥珀と大輔はすごく仲良く見えていたのに、どうして彼が突然そんなことを言い出すのか俺は困惑した。
    訳を聞くと、何でも俺(響也)の悪口を琥珀が言いふらしているそうだ。
    また、クラスに展示されている集合写真の俺の顔に悪さを働いたらしい。
    琥珀、一見素直そうに見えていながら心が掴みきれない奴、何を考えているかわからずまた果てしない人脈を有している奴。
    一緒に楽しそうに笑っていながら、俺の居場所を潰そうと目論んでいたなんて。
    大輔から聞いた話だが、琥珀がこれまで各地でおこっていたいじめの主犯格だったらしい。
    自分が狙われたことも相まって、俺の中では次第に憎悪が沸沸と湧いてきた。
    大輔は、そんな琥珀を逆に潰してやろうって提案してきた。
    言わずとも、そのつもりで俺の頭はいっぱいだった。

     翌日、俺はクラスに貼られている集合写真を確認した。
    確かに俺の顔は、ボールペンの様なものでグシャグシャにされていた。
    そんな俺の背中に当の本人である琥珀が声をかけてきやがった。
    「よー響也!今度またみんなで遊ぼうって言ってるんだけど響也も来るよね。」
    追い打ちとも捉えられるそんな提案に俺は憎悪を胸に反撃を考えた。
    「・・・おう、いくよ。」
    琥珀は悪意の片鱗も見せずに笑って「よーし、楽しみだなあ」っていつも通り浮世離れした表情をしていやがった。
    (このくそ狸が。)
    「こはくー!」
    クラスにいる女子の真里が琥珀を呼ぶ。
    「ん、どした?」
    琥珀は素っ頓狂な声をあげて返事をする。
    「ちょっと、今日の放課後付き合いなさいよ。」
    上目遣いで琥珀に何かを伝えようとしている。きっと真里の友人である誰かが琥珀に好意を寄せているのだろう。
    「お、おん。わかりまっしたー・・・。」
    琥珀も何かを察したのか少しワクワクした表情で返事をした。
    真里が去ると、俺の方に振り返り「な、なぁ響也。これって」ってすっげー嬉しそうな顔で言いやがるんだ。
    何も知らない頃の俺なら、そんな琥珀に対して「うおおお!なんか始まってますねえ!」なんて返したかもしれないが
    (琥珀、其れ俺に惨めさを味合わせる為に言ってんだろ。)
    「お、ごめん。話聞いてなかった。」平然とした様子でそう返してやった。
    「ちぇっ、聞いてなかったか。何でも僕に過ぎたはずの春が再来しようとしているんだっ!」
    (うぜえ。)
    「へぇ、いいじゃん」俺はそう残すと、一度も振り返らず教室から出て行った。
    (うぜえうぜえ。)
    そんな俺の様子を見ていたのか、大輔が俺の後へついてきた。
    「琥珀と何話してた?」
    「何でも。つうかアイツ早いところぶっ殺そうぜ。」
    大輔は普段は浮かべない様な笑顔を浮かべて「いいよ、じゃあどんな感じで殺す?」って質問し返してきた。
    其処から俺たちは、彼奴を殺す算段について考え始めた。

     クラスの様子がなにかおかしい。私がそう感じるのは、降り止まない雨のせいだろうか。
    琥珀に思いを伝えて、1週間が過ぎようとしている頃クラスに異変がおこっている。
    その異変とは、なんか皆んな暗いのだ。沈黙しているわけではないけど、なんだろう。
    渇いている・・・?天候とは裏腹にどこか皆んな渇いている様に見えた。
    それでも琥珀だけは、まだ潤っている様に見えた。
    そんな琥珀を見ていると、やっぱり胸が痛み、どっと疲れを感じた。


     ーー 1週間前 ーー

     放課後、友人の真里に琥珀は促される様にスタスタと私がまっている女子トイレまで駆けつけた。
    私が入っているトイレの前で琥珀はとまった。
    「じょ、女子トイレ初めてなんだが・・・」
    いつもと変わらない琥珀らしさに、それまで緊張していて頭が爆発寸前だった私の気持ちが一気に緩んだ。
    「ごめんね。あの・・・私、琥珀のこと好き。・・・付き合って欲しいの。」
    「・・・扉開けてよ。」
    「あ、、、うん。」
    扉を開けると、いつもよりずっと綺麗で真剣な目をした琥珀が私を見ていた。
    私を見ながら琥珀は口を開いた。
    「真里ちゃんはちょっと席外してくれるかな。ごめんね。」
    優しい声色でそう諭すと、真里はニヤケながらピューッってトイレを後にした。
    琥珀は俯いて「ふぅー」って息を整えた。
    「夕菜、ありがとう。」
    「う、ううん。」
    「僕も夕菜のこと大好きだよ。」
    「え、えっ!?」
    頭が真っ白になる。
    「でも友達のままでいていいかな。」
    「ふっ!?」
    蒸発しそうだった頭が急に冷める。
    やがて頭は真っ黒となった。
    「ど、どうして?」
    「・・・僕、独りが好きだから」
    無邪気に笑って琥珀がいう。
    「なにそれ」
    「・・・取り敢えず友達のままでいていいかな。」
    此処から立ち去りたいのか、琥珀が辛抱ならない声で友達を強調する。
    「なにそれ」
    「ごめん、夕菜。」
    まだ付き合ってはいなかったけれど、堅く結ばれていると思っていた絆が残酷なまでに一気に解けた。
    こみ上げる涙を私はただ流し、琥珀が何なのか私は分からなくなっていった。

     ーーーーーーーーーーー

     真里は泣き崩れていた私を、慰め私の気持ちに応えない、私を泣かせた琥珀を今もなお恨んでいる。
    普段は明るい真里も最近は、どこか強いというかどこか怖さを孕ませていた。
    「夕菜ー、今日も学校終わったら一緒に公園行こうよ。」
    あの日以降、クラスで俯きがちな私を真里は心配してよく遊びに誘う様になった。
    「・・・たく琥珀の奴、夕菜を泣かせてどうしてあんな風でいられるんだろうね。」
    (もう琥珀はいいの。琥珀は・・・。)
    言いたいけど、喉に何か詰まるものがあって言えなかった。

     放課後、私は真里と公園へ行く予定だったはずが響也くんの提案でクラスに残っていた。
















    【投稿者: 1: ごどり】

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