南の天

  • 超短編 1,087文字
  • 日常

  • 著者:

  • 鶫が鳴くころ、虐められている人を見つけた。
    校内に貼られていた全体写真の中で一人、顔がぐしゃぐしゃに落書きされていた。
    僕のクラスにいる宮代さんだった。
    僕はあまり学校に行くことが無かったから気が付かなかったけど、何やら面白いことが始まっているみたいで少しワクワクした。
    ワクワクと同時、僕は何故か心の底でマグマが湧いていた。・・・。
    宮代さんの様子を観察することにした。
    三か月見て分かったのは、彼女は複数の女子から嫌がらせを受けていて、男子からも避けられ冷ややかな視線を浴びせられていた。
    彼女は独りだった。彼女の机が倒れている事なんて日常茶飯事で、授業中は消しカスを頭に投げられていた。
    彼女が独り、机で突っ伏していると忽ち女子は机の周りを取り囲むようにして悪口を吐いた。
    そんな様子をニヤニヤしながら見ている男子。実に浅ましく、僕は三か月で観察をやめた。

    終礼が終わり、そそくさと帰ろうとする宮代さんの後を僕は追った。
    「ねえ。」
    宮代さんはビクンと肩を跳ねらせ、此方へ振り向いた。
    警戒している様だった。
    「大丈夫、僕は何もしない。」
    憐れまないで、と言いたげな表情を浮かべると踵を返して僕から逃げるように帰った。

    次の朝、クラスはいつも以上に騒々しかった。
    皆の引き出しに入っていた教科書、ノート類が全てなくなっていたのだ。
    担任は、"何か知っているものがあれば正直に答えなさい、さもなくば保護者を呼ぶ"との事だった。
    勿論、犯人が挙手することは無く担任が出した結論は「今日一日待ちます、今日の授業は隣のクラスから教科書を借りてください。」との事だった。
    朝礼が終わって担任が教室を離れると、犯人探しが始まった。
    "引き出しに物が残っている奴がいるんじゃないか?"誰かが言った。
    皆、引き出しを机の上にそのままあげた。
    僕だけモノがぎっしりと入っていた。その中には、他の生徒のものまで入っていた。
    挙句、僕のロッカーには皆の引き出しに入っていた教科書、ノートが全てはいっていた。

    すぐさま、担任へとチクりにいく女子の姿。教師が来ないことを確認しつつ、僕をこてんぱんに殴り続ける男子の姿。
    宮代さんは、そんな僕を"ざまあみろ"といった様子で傍観していた。
    担任が来ると、僕は胸倉を掴まれ「なにしたか分かってんのか!」って意識が吹っ飛ぶくらいのビンタをされた。

    全部殺したかった。全部全部殺したくなった。

    宮代さんは、いつの間にか虐めから解放されていて気づけば僕を虐める皆の中に加わっていた。
    僕の底で沸々と湧いていたマグマはいつの間にか冷めて、腹の中で固まっていた。

    此れでよかった。

    蜩がなくころ、学校の屋上から天へと飛んだ。








    【投稿者: 凪】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      へこきま

      憎き宮代さん!w