虹の向こうに

  • 超短編 812文字
  • 日常

  • 著者: でんでろmk2
  •  私は、コツコツと鉛筆で机をたたく。もうどれくらい、この進路希望調査の紙とにらめっこしているだろう?

     付き合いで待たせてしまっている幼馴染みの健太にも申し訳ない。

     あれ? そういえば……。

    「そういえば、健太の夢って、子供の頃から、ずーっとパイロットだったわよね。それって、どうしてだっけ?」

     私は、健太に尋ねた。実は、進路希望調査の紙に書く候補がまったくないわけではないのだ。

    「あれ? 言ったことなかったっけ?」

    「うん、男の子らしい夢だなー、と思って、疑問に思ったことないから」

    「俺、小学校2年の時に担任の先生に質問したんだよ。『虹の向こうには何があるんですか?』って。そりゃもう、ワクワクして」

    「ふーん、それで、先生の答えは?」

    「『空だよ』って」

    「なにそれ! つまんない!」

    「俺もそういったんだ。『つまらない』って。そうしたら先生、なんていったと思う?」

    「なんて言ったの?」

    「『つまらないのはお前だよ! いいか? 虹を超えて向こうに行ったそのまた向こうのまた向こうまで、ず――――――っと空なんだぞ! それでワクワクしねー奴の方がよっぽどつまんねーよ』」

    「それを聞いて健太は……」

    「なんだかワクワクしてきて、その果てしない空を無性に飛びたくなって、パイロットを目指すようになったんだ」

    「そっかぁ、そんなことがねぇ」

    「いい話だろ」

    「自分で言うか?」

    「ははは」

    「そっか、でも、ありがと」

    「なにが?」

    「私も、とりあえず進路表に書くこと決まったから」

    「え? なに? まさか、パイロット?」

    「そんなわけないでしょ、先生よ」

    「えっ?」

    「迷ってたんだけどね。私もいつかそんな素敵なことの言える先生になってみたい」

    「なれるよ」

    「えっ?」

    「なんだって、どんな夢も、憧れることから始まるんだよ、きっと」

    「どうしたの? なんだか今日の健太、かっこいいよ」

    「俺は、もともとかっこいいの! じゃあ、さっさと進路希望調査の紙書いて出しちまおうぜ!」

    「うん!」

     私は元気よく答えた。

    【投稿者: でんでろmk2】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      なかまくら

      夢のある人の近くにいると、自分まで夢を持っていい気がしてきますね。
      青春って感じがしました。