私は、コツコツと鉛筆で机をたたく。もうどれくらい、この進路希望調査の紙とにらめっこしているだろう?
付き合いで待たせてしまっている幼馴染みの健太にも申し訳ない。
あれ? そういえば……。
「そういえば、健太の夢って、子供の頃から、ずーっとパイロットだったわよね。それって、どうしてだっけ?」
私は、健太に尋ねた。実は、進路希望調査の紙に書く候補がまったくないわけではないのだ。
「あれ? 言ったことなかったっけ?」
「うん、男の子らしい夢だなー、と思って、疑問に思ったことないから」
「俺、小学校2年の時に担任の先生に質問したんだよ。『虹の向こうには何があるんですか?』って。そりゃもう、ワクワクして」
「ふーん、それで、先生の答えは?」
「『空だよ』って」
「なにそれ! つまんない!」
「俺もそういったんだ。『つまらない』って。そうしたら先生、なんていったと思う?」
「なんて言ったの?」
「『つまらないのはお前だよ! いいか? 虹を超えて向こうに行ったそのまた向こうのまた向こうまで、ず――――――っと空なんだぞ! それでワクワクしねー奴の方がよっぽどつまんねーよ』」
「それを聞いて健太は……」
「なんだかワクワクしてきて、その果てしない空を無性に飛びたくなって、パイロットを目指すようになったんだ」
「そっかぁ、そんなことがねぇ」
「いい話だろ」
「自分で言うか?」
「ははは」
「そっか、でも、ありがと」
「なにが?」
「私も、とりあえず進路表に書くこと決まったから」
「え? なに? まさか、パイロット?」
「そんなわけないでしょ、先生よ」
「えっ?」
「迷ってたんだけどね。私もいつかそんな素敵なことの言える先生になってみたい」
「なれるよ」
「えっ?」
「なんだって、どんな夢も、憧れることから始まるんだよ、きっと」
「どうしたの? なんだか今日の健太、かっこいいよ」
「俺は、もともとかっこいいの! じゃあ、さっさと進路希望調査の紙書いて出しちまおうぜ!」
「うん!」
私は元気よく答えた。
コメント一覧
夢のある人の近くにいると、自分まで夢を持っていい気がしてきますね。
青春って感じがしました。