「また、祈られた」
手にした紙をクシャっと……丸めたりはせずに、元通りにして封筒に戻す。
大学3年も終わろうとしている。
仁美はとっくの昔に第一希望の一流商社に内定をもらっているっていうのに。
俺はといえば、ただの1つも内定をもらっていない。
友達の中にもそんな奴はいない。
「また、探しなおしか……」
合同企業説明会の帰り。ふと、見上げると、坂の上で仁美が仁王立ちしていた。角でも生えていそうな仁美様だ。
「よお、久しぶり」
俺は仕方なく声をかけた。
「久しぶりなのは、あんたが私を避けているからでしょう?」
「就活で忙しいんだよ」
「聞いたわよ。あんた、無謀なとこばっかり受けてるっていうじゃない」
「『無謀』ってなんだよ。高望みがいけないのかよ?」
「あんた、ブランドなんかにこだわる人じゃないでしょ? 私との釣り合い気にしてるんでしょ?」
ぐぅの音も出ない。
「そんなこと気にしてどうするの? そんな理由で、私があなたを捨てるとか思ってるの?」
「そうじゃない」
「だったら、あなたはあなたの夢を追いかければいいじゃない」
「夢ね……」
「ないの?」
「あるよ」
「じゃあ、それを仕事に……」
「ちょっと待った。いつから、夢は職業だって決まったんだ?」
「え?」
「心配すんな。就職はする、確実に堅実に。でも、俺の夢は職業じゃない」
「じゃあ、なによ」
「今、分かったんだ。俺の夢は『君といる未来』なんだ」
仁美が驚いて、俺の顔をじっと見ている。
「だから、仕事は、続けられて生活を支えられるものならなんでもいいんだ。もちろん、ブランドネームもいらない。そういう方針でちゃんと就職先探すよ」
「ば、バカじゃないの? それ、ほとんどプロポーズじゃない!」
「そうとってくれていいけど、本当のプロポーズは給料の3ヶ月分以上の貯金ができてからな」
「それじゃ、全然、足りないわよ! バカ!」
仁美が泣いていた。
OKって、ことでいいのかな?
まぁ、とにかく、就活頑張ろう!
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