ドンドンドン
ドンドンドンドン
「だんなー、だんなー、おーきてやすかい?」
ガラガラ
旦那
「おや、傘売りの傘兵衛かい。いったい、こんな夜分に、何がどうしたってんだい?」
傘べえ
「それが、それが、てーへんなんですよ!はあはあ、てーへんなんですよー!はあはあ、八丁堀で、あの発酵、はあ、人間が、はあ、出たんすよー、はあはあ」
旦那
「息を切らして、何があったい? 発酵人間? いったい何を言ってるだい? まあ、茶ーでも飲みねえ」
傘べえ
「ありがてえや」
ぐびっぐびっぐびっ、ぷっはー
傘べえ
「あー、うまい茶だあー! ありがてー! ところで、旦那ー! 二丁目の魚売りのお京ちゃん、あっしのこと、どう言ってた?」
旦那
「お京、お京、あーあー、あの、おきょうちゃんね。そうだねー、確か少し前に、傘兵衛のこと聞いたら『まあまあ』って言ってたなあ」
傘べえ
「まあまあ?? まあまあ、って何でやすかい? それはあっしに気があるってことか?無いのか? どっちなんでやす?」
旦那
「そりゃあそうだなー。。 まあまあ、ってんだから、そりゃあ微妙ってこと、だな」
傘べえ
「びみょーおうおう? 旦那ー!学のねえ、あっしに難しいこと、言わんでくれ!微妙ってなんだい? お京ちゃんはあっしの事にホの字なのかい?」
旦那
「ほォゥ! まあ、微妙なんで、三七で、ムリポ」
傘べえ
「旦那ー! ムリポ! それは何でやすかい? ムリポ?? お京ちゃんがムリポって、なんでやすかい?むりぽぅ?」
旦那
「傘べえ!もう、夜もふけたし、帰って寝んなー。お京ちゃんには、傘べえの男っぶりの良さを、こんどタップリと売り込んどくから、安心して、寝んなー」
傘べえ
「ありがてえー!さすが、あっしが見込んだ旦那ってもんだー? あれ、あっしは、お京ちゃんの事、聞きに来たんだっけ?」
旦那
「うーん。さあな? 何か言ってたかも?まあ、おめえのとこのオッカさんは、おっかねえから早くかってやんなー」
傘べえ
「旦那、夜分にかたじかねー! お京、お京ちゃん、とにかく頼んますぜぇい、旦那ー!」
旦那
「分かった!分かった!お京ちゃんの事は分かったから、傘べえ!はよ、かかって寝ろー」
傘べえ
「夜分にすまねえやー、旦那!」
旦那
「じゃあな! おっと、傘べえ。ひとつ、言い忘れたが、最近、巷に発酵人間なる輩が出るってそうだから、てめえも帰る折、夜道、十分に気をつけなー」
傘べえ
「ひぃよぇぃー、発酵人間! そりゃあ、何ともおっかねえ響きだぜ! 忠告ありがとよー、旦那ー」
旦那
「僕、もう寝るから」
ガラガラ
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