賢者の光

  • 超短編 692文字
  • 日常

  • 著者: ちくたく
  •  あ、と思ったらおやを殺してしまった。言い訳をすれば貧困が成したことである。まずいなと思い出奔を考えるが貧乏なので難しい。やれやれこれはまずいことになったぞ、とひとりごちてみせる。だけど、やれやれとか言ってる場合じゃねぇよなどと反省し、そう言えば、やれやれと言えば村上春樹のカフカ君はヤバい状況で凄いなマジであれ出奔無理だろふつう経済あったんだろうが精神力パネー、と蛇足する。
     やれやれ、あたしはため息するが具体は思いつかない。かと言って、「ああ、殺すんじゃなかった」とも思わない。死んでくれて結構、死んでくれて上等、もう死んだけど。なので次のことを考えなければならない、でもあたしはカフカ君ほどパワフルではないので脆弱にものを考える。
     まずはあたしは罪を償うつもりはない、故にこの事実は秘匿しなければならない、オーケー、実に分かりやすい。そうなれば必要なのは隠蔽だ。すると当然次に考えるべきはそのための工作だ。外的環境からすると、親が不在になったところで気にする人はない、オーケー、いい状況だ。工作は最小限でいけるかもしれない、ちょっとしたことでイケるのは最高のことだ。
     つまり夜。そう、夜が必要だ。至極単純な結論で恐縮だが、夜、それも完璧な夜に、盲目の夜に死体を隠すのだ。できれば深い深い森の中に。腐葉土の中に。紙やすりで整えられた細い細い三日月だから林床には光を届けられない、そんな深い深い森の中にきっちり死体を隠すのだ。死体はとりたての免許で運ぶ。穴の掘り方はもう少しちゃんと計画しなければならない。
     それから、適切な検討ののち、あたしは夜を召喚する。ふかいふかい夜を、いい感じの夜を。

    【投稿者: ちくたく】

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    コメント一覧 

    1. 1.

      howame

      怪しげなお話ですね。暗闇の風景が目に浮かびます。