Chapter5 狂い出す過去④

  • 超短編 2,739文字
  • シリーズ

  • 著者:退会済み
  • 《若葉視点》
     涼介君から、私達の過去を聞きたがっていた。
     本当は思い出したくない過去。
     …だけど、涼介君になら言ってもいいかな。いつか話そうと思ってたし…。


     「…私達がまだ小さかった頃、有名な名家に住んでたの。
     そこで私とお姉ちゃんは、お父さんから刀を習った。
     私のお父さんは、子供の頃からずっと古武道を習ってて…、それを見つけたお姉ちゃんは、「自分も刀を振る舞いたい」って言い出したの。」
     「…じゃあ、姉貴のあの3つの刀は全部…?」
     「そう。全部お父さんから伝授された。
     斬裂刀も、鬼薙刀も、私の神楽刀も…全部。」
     あの頃は、お父さんから厳しく育てられてきた。
     私とお姉ちゃんが刀を始めたきっかけは、お父さんが刀を振る舞う姿を見て、「刀を持つ者は正義」と言われた。
     その「正義」を、私達は持ちたかった。

     お姉ちゃんは私と違って、振る舞いが良かった。
     だから同時に、3つの刀を扱っていた。
     「斬裂刀」と「鬼薙刀」。
     その2種類の3つの刀は、全てお父さんから教わったものだ。

     「…ただその時…、私達の家が襲撃されたの。」
     「…その襲撃者が…、大屋と黒沼か?」
     「…うん。あの時はお父さんが立ち向かったのだけれど…。
     …圧倒的に力は、大屋の方が上だった。」
     「……。」
     あの頃のお父さんは、確かにとても刀に関しては力強い方だった。
     大屋達に襲撃されたあの日、お父さんは1人で大屋達に立ち向かった。
     しかし、何の抵抗もなく、惨殺された。それうえお母さんも、何もできないまま殺されてしまった。
     私達は…、ただ隠れて親が殺されるのを見ているだけだった。
     「それで姉貴とお前は…、そこで離れ離れになったって事か?」
     「…うん。」
     そう。親が殺されてからの翌日。
     お姉ちゃんが…、家から出ようとした時だった。



    ~8年前~
     『お姉ちゃん、どこに行くの?』
     『…どこでもいいでしょ。』
     『まさか、お父さんやお母さんが殺されたから、ここを出ていくって言うの?』
     『……。』
     『…そうなんでしょ?ねえ?』
     『……。』


     『黙ってないで答えてよ!!』

     何も言わず出ていこうとしたお姉ちゃんに、私は怒鳴りつけた。
     お姉ちゃんは私の方へ振り向いたが、表情一つ変えなかった。

     『…お姉ちゃんは今、1人でいたいの。
     何も若葉が割り込む事じゃない。』
     『でも私…!お姉ちゃんと離れたくない!
     お姉ちゃんが遠くに行っちゃったら…!私はどうしたらいいの!?』
     『……。』
     『お姉ちゃん…!私…、寂しいよ…!ずっと一緒にいたいよ…!!』
     『……。』
     お姉ちゃんはぼろぼろと涙を流す私を、ただ見つめるだけだった。
     それからお姉ちゃんは、口を開く。

     『…ごめんね、若葉…。』
     『…!』
     『お姉ちゃんはもう…、自分で決めたの。
     いっぺんに親を亡くして、この先どう生きていくか考えながら出るから。』
     『でも…!』
     『だから若葉…、あなたはいい子だから、ここにいて。』
     『嫌だよ!だったら私も一緒に行く!だから…!』
     『…残念だけど、それはできない。
     これはお姉ちゃんが決めた事だから。』
     『……。』
     『…ごめんね。そして…、


     さよなら、若葉…。』

     『お姉ちゃん!!!』

     そう告げると、お姉ちゃんは振り返る事はなかった。

     どんなに声を上げても、お姉ちゃんは振り向いてくれなかった。

     ただそれが…、寂しく思えた。

     大好きなお姉ちゃんは妹の私を手放し、自分の生きていく道を探しに、どこまでも…、歩み続けた。



    ~それから1年後~
     来る日も来る日も…、お姉ちゃんは帰ってこなかった。
     そこで私は考えた。
     もしかしたら、お姉ちゃんはどこかで何かあったんじゃないかと。
     そう思った私は、すぐに神楽刀を持ち、外に出た。



     着いた先は、今住んでいる街・歌舞伎町。
     夕暮れの時だった。
     お姉ちゃんはここにいるんじゃないかと、私は思ってた。
     親が亡くなる前に外出する時、よくここに来ていた。
     だから馴染みの街にお姉ちゃんがいるんじゃないかと思っていた。

     そんな中、裏路地で何か騒ぎがあった。
     柄の悪そうな男達が集って、何かしているのを見た。
     凝視してみると、餓死寸前の猫に暴力を与えていた。
     それを見た私は、すぐに猫の所へ駆け寄り、立ち塞がった。
     「そんなのただの玩具だろ」と嘲笑われながらも、私は神楽刀を握る。
     私は我慢の限界になり斬りかかるが、私の方が動作は遅かった。
     難なく避けられ、まずはお腹に一発。
     そして顔、身体…至る所に傷を作られてしまった。


     「このガキ、駆け寄って堂々と邪魔しやがって。
     所詮玩具構えたガキなんぞ、俺らが負けると思ってんのか?あ?」
     「うぅっ……。」
     私は頬を掴まれ、目の前の男を見つめるだけだった。
     確かに今思えば、小さい子供が大の大人に勝てる訳なんてどこにもない。
     駆け寄って助けても、子供の私は所詮殴られ損になるだけだった。
     「おい、何か言ってみろよ。」
     「もう口利けないんじゃね?」
     「よし、じゃあトドメ刺すか。」
     この時私は、お姉ちゃんを見つけられずに殺されるのかと思ってた。
     でも、その時だった。


     「…おい。」
     「あ?」

    バキッ!
     「うぐっ!?」
     私を掴まえていた男が、誰かに殴られたのが見えた。
     「な、何だてめえは!?」
     「…大の大人が子供に手を出すとはみっともねえな。」
     「この野郎、シメてやろうか!?」
     別の男が、助けてくれた男の人の胸倉を掴んだ。
     しかしそれを払い除け、顔に一発殴った。
     残りの男も、その男の人は簡単に殴り倒した。

     「…大丈夫か?」
     「は、はい…、ありがとうございます…。」
     そっと差し伸べられた手を取り、立ち上がる。
     「こんな時間に子供がここで何をしているんだ?親はどうした?」
     「……。」
     男の人の質問に答えようとするが、私は言葉が出なかった。
     何せ、親の事を聞いてきたのだから…。
     「…そうか。」
     しかし何も言わなくても、その人はわかっていた。
     「この子供の親は、あの世に行ってしまったのだ」と。
     私はそう思えた。

     「お前、俺の所に来ないか?」
     「…え?」
     「こんな所で子供が1人歩き回っていたら危ない。俺はそんなのは放っておけないからな…。」
     「でも…、いいんですか?」
     「俺は構わない。親の代わりに、俺が面倒見てやる。」
     「……。」
     強面だが、優しいな瞳で私にそう言った。



     それから私は、名前や歌舞伎町で何をしていたのかをその人に教え、7年間世話をかけられた。
     私は名前も知らないその人を、「おじさん」と呼んでいた。
     そして私が今の年齢…15歳になった頃だった。


     「…もう行くのか?」
     「うん。もう大丈夫だよ。おじさん。」
     「お前は確か…、長い間ここにいる姉を探していたんだよな?
     …早く見つかるといいな。」
     「そうだね。」
     私はお辞儀をし、こう言った。


     「おじさん、今までお世話になりました。」



     そう告げて、私はおじさんの元を離れた。

     大丈夫、1人でも。

     1人でも、お姉ちゃんを探せる。

     だって、こんなに成長したんだもん。


     当時の私は、そう思った。

    【投稿者: 2: アズール021】

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