「何これ?」
彼から「はい」と言われ渡された、白の包装紙がされてある箱を見ながら訊く。
「今日、ホワイトデーだから」
「ああ、バレンタインのお返しって訳ね」
「そう」
私は、包装紙を綺麗に剥がし、箱の中を確認した。
中には24個のチョコが入っていた。
「バレンタインの返しが、チョコって」そう言いながら、1個食べる。
「しょうがねえじゃん。他に思いつかなかったんだから」
彼も1個食べる。
「え! 食べるの?」
「いいじゃん。俺が買ったんだし」
「まあ1人で食べるのには少し多いからいいか」渋々了承しながら、また1個食べる。
「なあ、ゲームしない?」
「ゲーム?」
「最後の1個食べたら負けゲーム」
「懐かしい。昔、そういうのやったなあ」
私は、2つのコップにコーヒーを注ぎにキッチンに行った。
「最大で食べていいのは3個まで」
「それで負けたらどうするの?」
「じゃあ、1回だけ何でも言うこと訊くってのはどう?」
「いいねー。何、頼もうかな」
「もう。勝ったっ気でいるのかよ」
3個ほど食べてはいたが、改めてじゃんけんをし先攻後攻を決め、私からゲームがスタートし、まず初めに3個ほど手に取った。
「おお、いきなり3個取るかあ」
「このチョコ美味しい」
「じゃあ、俺は1個で」
次に私は2個取り、彼も同じく2個取った。
その後もゲームは続き、私が1個だけ口に入れると、彼は3個口に入れる。
そしてようやく気付いた。気付くのが遅過ぎたくらいだ。もう私の負けは見えていた。
私が2個取ると、彼も2個取る。
「もう私の負けだね」
「でも最後までやろうよ」
「無理なお願いはダメだからね」
「分かってるって」
私は1個口にし、彼が3個口にし、とうとうラスト1個を私が口にする。
「!?」
俺はホワイトデーに何を渡そうか悩んでいた。
付き合って4年目。今までにもホワイトデーのほかに、誕生日やクリスマスに、色々と渡してきた。
女性はいいよ。バレンタインには、チョコ一択なのだから。
そして出た結論が、1周回ってのチョコだった。
彼女も俺も甘いもの好きだし、そうと決まれば、とスマホを手にしとある人物に電話をかけた。
「今、話せるか?」
「全然。ホワイトデー前のつかの間の休日を過ごしていたところ」
「そんなお前に頼みがあってさ。チョコ作って欲しいんだ」
「じゃあ、うちに買いに来いよ」
「今から、家に行ってもいいか?」
そして、パティシエをしている友の家に、チョコ以外にもう1つ頼みごとをしに向かった。
「ちょっと待って、チョコの中に何か入っている」私は口の中から硬い何かを取り出した。「指輪?」
「そう。指輪。びっくりした?」
「どうすんの? 飲み込んでいたら」
「飲み込まんでしょう」
「なんで指輪?」
「ホワイトデー何がいいか悩んでさ。今まで、色々とプレゼントして来たし、今までに渡してないもの何かなあ、と考えたら、これが思い浮かんだ」
私は口から取り出した、チョコが付いた指輪を、水道で綺麗に洗った。
「それで私に何をお願いするの?」1カラットにも満たないダイヤが嵌め込まれた指輪を、ライトに翳す。
彼は、私が手にしていた指輪を取り、水で濡れた左手をそっと掴み、指輪を薬指に嵌めながら「結婚して下さい」と口にした。
私は、彼の目を見ながら頷くと、チョコが付いた唇で甘くて淡いキスをした。
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